2025年11月11日から15日までの5日間、日本核シェルター協会による視察団の一人として、当社代表の小熊がイスラエルを訪問しました。本視察は、防災・危機管理分野の先進国であるイスラエルにおいて、シェルター設備、換気・防護技術、民間防衛のあり方を現地で直接確認する貴重な機会となりました。
今回は、実際の地下シェルター施設など、多岐にわたる機関を視察。また、現地大使館訪問や研究者との意見交換など、日本では得られない知見と緊張感の中での充実した日程となりました。
現地でしか感じられない空気感

今回の視察は、イスラエルが厳しい治安情勢下にある時期に実施されました。街中には軍の存在感が感じられ、空港のセキュリティチェックも日本とは比べ物にならないほど厳重です。その一方で、都市部は想像以上に清潔で秩序があり、人びとの生活は落ち着いているという印象も受けました。
しかし、突然のサイレンや緊急警報に備えた暮らしが「日常の一部」として存在していることも、現地にいなければ分からないことです。
シェルター用の換気システムを製造する企業として、
“何のためにシェルターが必要で、どのレベルの防護が求められるのか”
という根本的な問いに向き合う機会となり、製品開発に対する考え方を深く見つめ直す視察となりました。
視察1日目
ランバム病院(Rambam Health Care Campus)視察

ランバム病院は、B1〜B3の地下駐車場を最大8,000人収容の医療用シェルターへ転換できる世界的にも稀有な施設を持っています。
平時は駐車場として使用されていますが、有事になるとわずか数時間で本格的な医療施設へと変貌する設計で、COVID-19の際にも実際に使用されました。
今回の戦争でも病院近くで爆発が発生し、15時間で全患者を地下に移動したとのこと——その“実運用力”の高さが、非常に印象的でした。
Beth-El Industries訪問

世界100か国以上へ納品するイスラエル最大級のシェルター用換気メーカー、『Beth-El Industries』。
同社は核・生物・化学(CBRN)に対応したろ過技術を持ち、イスラエル国内のシェルターでは地下階だけでなく、住居フロアに近い場所にも設置されるケースが多いとの説明を受けました。
世界情勢の変化とともに、CBRN対策の考え方は国ごとに異なることを再認識し、日本市場に合わせた技術選択の重要性も再確認しました。
在イスラエル日本大使館表敬訪問

新居大使をはじめ、多くの外交官の皆さまより、イスラエルの民間防衛政策、国際情勢、日本との安全保障協力のあり方など、非常に貴重な視点を伺いました。
大使館主催の夕食会では、防災・危機管理の観点から日本企業に求められる取り組みや期待についても意見交換を行いました。
視察2日目
Home Front Command(民間防衛軍)

イスラエルでは、民間人の安全を守るための独立した指揮系統が整備されています。
Home Front Commandは、避難・防護のガイドライン、建築基準、警報システムまで統一的に管理しており、日本では見られないレベルの国家的枠組みに驚かされました。
特に、核発電所を持たないため、放射能リスクが限定的である一方、化学・爆発物対策を重視する構造が特徴的です。
研究機関・軍需企業への訪問

限られた時間ではありましたが、以下の施設を順番に視察していきました。
-
– Israel Electric Company
電力インフラの防護計画とレジリエンスの考え方を共有。 -
– DDR&D(防衛研究開発局)
国家レベルの技術開発を推進する組織。危機管理テクノロジーの最先端を直接確認。 -
– ベングリオン大学
研究者より、都市防衛システムと災害対策の理論的背景を学ぶ。 -
– IAI(イスラエル航空宇宙産業)
災害時の指揮システムや監視技術など、シェルター運用と連携する技術が多数紹介された。 -
– ORTECH
個別の防護装置や材料技術など、民生向けプロダクトの理解が深まった。
視察3日目
防衛データセンター見学

歴史的な都市・エルサレムの視察では、宗教・文化の複雑さと緊張感が共存する空気に触れました。
また、防衛データセンターの見学では、都市防衛における情報管理・警戒システムの実例を確認しました。
製品メーカーとしての学びと課題

イスラエルでは、
「危機が常に近くにあるから、良い製品を作らなければ生き残れない」
という意識が非常に強く、スタートアップも積極的に技術を生み出していました。
当社のようにシェルター用換気システムを製造する企業にとっても、現地での実運用に触れることは大きな刺激となり、
-
製品の品質と信頼性
-
保守性
-
設置性とコストのバランス
-
有事における“使われ方”のリアリティ
など、多くの改善視点を得ました。
特に、イスラエルでは地下シェルターだけでなく、居住空間に近い場所に小規模シェルターを設置する文化があり、日本での普及を考える上でも興味深い比較となります。
トラブルも含めて「忘れられない視察」に

今回、現地到着時にプロテクトアーツ代表の小熊と、日本核シェルター協会の池田理事長のスーツケースが紛失するというハプニングもあり、視察初日から慌ただしいスタートとなりました。しかし、それも含めて海外視察の醍醐味であり、現地の緊迫感の中で得られた学びは非常に大きなものでした。
まとめ:日本のシェルター文化をつくるために
今回のイスラエル視察では、シェルターの必要性が“生活の一部”として根付いている国の現実を目の当たりにしました。
日本ではまだ馴染みの薄い分野ですが、災害・有事に備える意識は確実に高まっています。
プロテクトアーツ株式会社は、今回得た知見を活かし、
「日本の暮らしに合った、実用的で信頼性の高いシェルター基準の構築」
に貢献してまいります。