私たちが日常生活を送るなかで、“空気の安全”について深く意識する機会は多くありません。しかし、災害時やテロ・戦争などの非常事態において、空気中に含まれる有害物質は人命を左右する重大なリスクになります。
そのような「目に見えない脅威」に対して、防災・防衛の分野でキーワードとなっているのが 「CBRNE」 や 「NBC」 と呼ばれる概念です。 これらは化学・生物・放射性物質などの危険要素を総称したもので、世界中の軍事・防災機関が対策の枠組みとして用いています。本記事では、その用語の歴史や使われ方も踏まえ、説明していきます。
NBCとは ― 冷戦期に生まれた「三つの脅威」

「NBC」とは、Nuclear(核)、Biological(生物)、Chemical(化学) の頭文字を取った言葉です。 冷戦期、核兵器や化学兵器、生物兵器といった大量破壊兵器(WMD)が国際社会の大きな懸念となるなかで、これらに対する防御・防災体制を指す用語として定着しました。
NBC兵器の特徴は、いずれも 「広範囲に被害を及ぼす」「目に見えない」「二次被害を生む」 という共通点にあります。化学兵器は空気や水を媒介に拡散し、生物兵器は感染を通じて人から人へ広がります。核兵器では放射性物質の飛散が長期的な環境汚染を引き起こします。
これらに共通するのが「空気」という媒介であり、呼吸を通して人体に侵入するリスク です。
NBCからCBRNEへ ― 用語進化が示すリスク環境の変化

NBCからCBRN、そしてCBRNEへ
冷戦が終結し、国際社会の安全保障環境は大きく変化しました。 国家による兵器開発だけでなく、テロリズムや事故、放射線汚染など、より多様な脅威が現れたのです。
これを受け、1990年代に「NBC」に Radiological(放射線) を加えた 「CBRN」 が使われるようになり、さらに2000年代には Explosive(爆発物) を加えた 「CBRNE」 が国際的な標準用語として定着しました。
この用語拡張は、単なる言葉の置き換えではなく、リスクの多様化と非軍事的災害への対応範囲拡大 を意味します。 例えば、工場爆発事故や放射線物質の漏出、ウイルス感染の拡大、テロによる爆発事件なども、CBRNEの対象とされます。
現代では「CBRNE」が一般的
現在、NATOや各国防衛機関、国際的な災害対応機構 では「CBRNE防護(CBRNE defense)」という用語を使用しています。 日本でも防衛研究所(NIDS)や自衛隊の資料、国内防災関連の学術論文で「CBRNE」または「CBRN」という表記が一般化しつつあります。 これは、単に軍事用語にとどまらず、災害対策・テロ対策・医療防護・インフラ保護 まで含めた包括的な危機管理の枠組みとして定義されているためです。
つまり、NBCは冷戦期の脅威認識、CBRNEは現代の総合危機対応 という位置づけになります。

このように、「CBRNE」は現代社会の多様な有害リスクに対応する防災・防護の新基準として位置づけられています。
R(Radiological)とN(Nuclear)の違い

CBRNEの中でも、「R(放射線)」と「N(核)」は似て見えますが、想定している危険の性質が異なります。 R=Radiological は、放射性物質そのものによる汚染を意味します。核反応は伴わず、医療用や工業用の放射線源が事故やテロによって拡散するケースが中心です。いわゆる「汚い爆弾(Dirty Bomb)」が代表例で、爆発の威力よりも放射能汚染や心理的混乱が問題となります。
一方の N=Nuclear は、核分裂や核融合といった核反応そのものが起こる事態を指します。
核兵器の爆発や原子炉事故のように、膨大な熱・爆風・放射線を伴い、広範囲かつ長期的な被害を引き起こすのが特徴です。
簡潔に言えば、
- Rは「放射性物質の拡散による汚染の脅威」、
- Nは「核反応による破壊と放射線の複合的脅威」。
同じ「放射線」を扱う領域でも、規模・原因・影響が大きく異なる点が、両者を分ける重要なポイントです。
なぜ“空気清浄”がCBRNE対策の要となるのか
CBRNEのうち、特にChemical(化学)・Biological(生物)・Radiological(放射線)に関する被害は、空気を介して人体に侵入 します。つまり「空気を守る」ことは、「命を守る」ことに直結します。
災害時の避難所や病院、官公庁施設、さらには自衛隊・消防・警察などの防災拠点においても、CBRNE対応の空気清浄・換気システム が求められています。 一般的な空気清浄機は花粉やPM2.5除去には有効ですが、化学剤や放射性微粒子、細菌・ウイルスへの防護性能は不十分です。
そのため、高性能フィルタと気圧制御技術を組み合わせた「防災型換気システム」 が必要になります。
国産技術でCBRNEから命を守る ― 「ATバリア」シリーズ

こうした“空気の防衛”を目的に開発されたのが、弊社の 災害用換気システム「ATバリア」シリーズ です。 ATバリアは、CBRNE対策を前提に設計された日本産の防災用空気清浄・換気ユニット であり、有害物質を効率的に除去する独自の多層フィルタ構造を採用しています。
- 化学剤や放射性微粒子を吸着する 特殊活性炭フィルター
- 微粒子や生物系エアロゾルを捕捉する HEPAフィルター
- 室内外の気圧差を制御し、汚染空気の侵入を防ぐ 正圧・負圧制御機能
これにより、一般的な空気清浄機では不可能な「CBRNE環境下での呼吸空間の確保」を実現します。 また、停電時でも稼働できる設計により、災害現場・医療施設・避難所・行政施設などでの運用にも適しています。
「ATバリア150」と「ATバリアLite」 ― 状況に応じた防災ソリューション
スタンダードモデルである「ATバリア150」は、大型避難空間や防災拠点を想定した高出力モデルです。 強力なフィルタリング性能により、長時間の運用や大規模空間の防護に対応します。
一方、新モデル「ATバリアLite」は、小型・軽量・可搬性 を重視したモデルで、 災害時の一時避難スペースや医療現場など、限られた空間でも迅速に設置できます。
「小型でもCBRNE対応」、それがATバリアLiteのコンセプトです。一般利用者でも扱いやすい操作性を実現し、専門知識がなくても空気の安全を守ることができます。
見えない脅威に備える時代へ
CBRNEという言葉は、日本からの視点だと遠い世界の話に聞こえるかもしれません。 しかし、2025年現在、中東やロシアで戦争していることを10年前に誰が予想できたでしょうか?そういった世界情勢がある今、「空気の安全を確保する」 ことが日本社会における防災課題であることは明らかです。
「ATバリア」シリーズは、そうした現代的なCBRNE環境への備えとして、国産技術で“命を守る空気”をつくる ソリューションなのです。